幼な妻だって一生懸命なんです!
気持ちが落ち着くのを祖母は黙ってそばにいてくれる。
小さい頃、よくトントンと祖母は背中を軽く叩いて、いつも私を安心させてくれた。
その暖かさが身にしみて、さらに涙が溢れる。
長瀬さんとのことだけじゃない。
親元を離れる寂しさ、これからの生活、いろんなことを含め、感情が慌ただしくなっている。
「ふー」
深呼吸をすると、涙が止まり始める。
祖母は黙ったまま、背中をずっとさすってくれる。
そこに雑な足音が聞こえて来た。
祖母は「あっ!」と何か思い出したようだ。
がちゃっと勢いよく開いた扉には、スーツ姿の啓介が立っていた。
「ノックくらいしてよ」
勢いよく入った割には、啓介は突っ立ったまま、何も言わず私を見ている。
「啓ちゃん、キレイでしょう?みーちゃん」
祖母の言葉にやっと反応する。
「馬子にも衣装だな」
やっぱり。
こういう時の言葉を想像できるのは姉弟だからだろう。
「はいはい、啓介の憎まれ口も今日は許してあげる」
「衣装はまともなのに、なんで顔がブサイクになってるんだ」
「えっ?やだ!」
さっきの涙でお化粧が崩れてしまったのだろう。
「大丈夫よ、メイクさんがまた直してくれるから。啓ちゃんは寂しいのよね」
「そんな訳あるか」
いつもよりさらに大きな声で反応する啓介を祖母は笑いながら見ていた。
扉が開いたままのやり取りは廊下に響いていたようで、私の両親や親族が控え室に次々とやって来た。
母は私の姿を一目見た途端、感極まって涙を流している。
私が涙もろいのは母譲りかもしれない。
父は照れているのか、私を見ようとせず、窓の外を見ている。
その他、叔父や叔母、いとこなどが私の周りを取り囲み、写真撮影が始まった。
数分も経たないうちに、ガヤガヤと賑やかな控え室の空気がピタッと止まった。
親戚たちが道を開ける。
扉には紋付袴姿の長瀬さんが立っていた。