幼な妻だって一生懸命なんです!
涙が一筋頬を伝わる。
白無垢用のメイクが終わっているのに、どうしよう。
その時、トントンとノックの後、数秒の間が空き、カチャと控え室のドアが開く音した。
「おばあちゃま!」
ドアから入って来たのは、着物を上品に着こなしている祖母だった。
小柄で可愛らしい祖母が、私の顔を見ると「あらあら」と袂からガーゼのハンカチを出し、そっと私の目元を拭う。
少し離れて、私の顔を見ると手を取り、甲をさすった。
「どうしたの?可愛い花嫁さんが台無しよ」
「おばあちゃま」
「お式の前にそんなに泣いて」
祖母の顔を見たら、とめどなく涙が溢れだす。
「結婚が嫌になったの?」
フルフルと首を横に振る。
違う。
長瀬さんと結婚することはすごく嬉しい。
長瀬さんに大事にされていることもわかる。
ただ
長瀬さんに求められていないと思うことが悲しいのだ。
そして不安でいっぱいになる。
結婚してから、ちゃんと求めらるのだろうか。
私に魅力を感じていないのだろうか。
こんなことを祖母に相談するようなものではないと、口をつぐむ。
「いつでもみーちゃんの味方よ。私にとっての可愛い初孫ですもの」
祖母にとって私は初孫で、可愛がってもらった。
祖母はSweet Time Teaに行くのは、娘の私の母親より、孫の私を連れて行ってくれることが多かった。
Sweet Time Teaで紅茶を飲む祖母を見ていると幸せな気分になった。
それは祖母の嬉しそうな顔。
その幸せな表情は、孫の私が見てもキレイなのだ。
若い頃は女優の大原麗子さんに似ていると言われていたのに、私は父親似ってどういうことなの!と、いつも母親がぼやいていた。最後にはいつも
「美波はおばあちゃまに似て美人さんになるわ」
幼少時にそんな風におだてられた。
大原麗子さんという女優を知らなかった私は、ネットで調べて確認したが、私なんて足元にも及ばない美人さんだった。けれど、どことなく祖母に似ていた。
年齢を重ねても、その雰囲気は残っている。