クールな部長の独占欲を煽ったら、新妻に指名されました
「まぁ、私がこの人と結婚するときに父は足を洗って隠居したからね。遙が知らないのも無理はないわ」
そういえば、祖父が引退するときに権力争いに巻き込まれないよう父と母は政略結婚をしたと言っていたっけ。
国内有数の大企業の社長の妻となれば、ちょっと怖い団体の人だろうとそう簡単には近づけない。
なるほど、と思わずうなずく。
「それでこいつらがいつも集まっているビルをつきとめたのはいいけど、どの部屋に宮下が閉じ込められているかまではわからなくて、必死に探していたんだ」
部長が父の言葉を引き取って説明してくれた。
「だから電話で、大声で叫べって言ったんですね」
私がそう言って部長を見上げると、目が合った。
そのとたん、凛とした整った顔がみるみる崩れて苦し気にゆがんでいく。
初めて見る表情だった。
「……間に合ってよかった」
部長がかすれた声で言いながら、私の体を抱きしめた。