クールな部長の独占欲を煽ったら、新妻に指名されました


 顔を真っ赤にした私が口ごもっていると、恵介さんは怪訝な表情で眉をひそめた。
 はじめて会った他人に向けるような表情だった。

そんな素っ気ない対応に、私は頭から冷水を浴びせられた気がした。

 恵介さんは私をおぼえてもいないんだ。

 考えてみれば当然だ。
 大学生だった彼にとっては、中学生の女の子なんて気に留める必要もない存在だ。
 彼が私を忘れていてもしかたない。


『どうした?』

 いつまでも挨拶もせずに立ち尽くす私に、恵介さんは小さく首をかしげていた。
 私はあわてて鼻をすすり『いえ』と首を横に振る。

『はじめまして、宮下遙です。どうぞよろしくお願いいたします』

 精一杯の笑顔で挨拶をして頭を下げると、部長は表情を変えもせずうなずいた。

『あぁ。真一から話は聞いている。社長の身内とはいえ特別扱いはしないから、覚悟しておけよ』

 その不愛想な挨拶に胸がずきりと痛んだ。

 社長の娘が新入社員として部下になるなんて、彼にとっては迷惑でしかないんだろう。
 初恋の人に再会できると浮かれていた自分が情けなくなった。


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