クールな部長の独占欲を煽ったら、新妻に指名されました
南部長はうつむいてはぁっとひとつ息を吐きだし呼吸を整えると、背筋を伸ばしてこちらを見る。
そして戸惑う私と桑井さんを前に一歩踏み出した。
「桑井さん。こんなところでどうされました? うちの宮下がなにかご迷惑をかけましたか」
丁寧な口調で言いながらもこちらを見る南部長の視線は冴え冴えとしていて、静かな怒りが伝わってくる。
「いや、迷惑とかではなくて……」
南部長の登場に、桑井さんのさっきまでの威圧的な態度は一変しうろたえるように目が泳ぐ。
「た、ただホテルの部屋に資料を忘れたから取りに行こうと思っただけで」
「なぜホテルの部屋を取っていたんですか?」
「いや、飲み会の後に自宅に帰るのが面倒だったから」
「桑井さんは都内の銀行の社宅にお住まいでしたよね。わざわざ部屋を取るよりタクシーを使った方が合理的では? そもそも、接待のあとに宮下に部屋に寄るように言ってまで渡す必要のある書類とは一体なんですか?」
冷静に追及され、桑井さんが「ぐっ」と言葉につまった。