夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
***

「春臣さん、お帰りなさい」

 寝間着を身につけ、髪をタオルで巻きながらリビングへ向かう。
 首筋を伝っていった水滴を軽く拭って声をかけてみたけれど、不思議なことに返事がない。

「春臣さん?」

(帰ってきたと思ったけど、気のせい?)

 それならそれで、連絡が来ているか確認しようと携帯電話に手を伸ばしかけた。

「……っ、ひえ」

 自分でも驚くくらい情けない声が出る。
 携帯電話の置いたチェストのすぐ側、ソファで無防備に横たわる春臣さんの姿を見たせいだった。

「ここにいたんですね……?」

 心臓がバクバク騒いでいるのを懸命に落ち着かせながら、改めて話しかけてみる。
 けれど、閉じたままの瞳は開かない。
 よくよく見てみれば、胸が規則正しく上下に動いていた。
 どうやら寝ているらしい。

(帰ってきてからそんなに経ってないはずだけど……)
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