夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~

 きっと、帰ってきた春臣さんはまっすぐソファに向かったのだろう。
 ネクタイを緩めながら腰を下ろし、一日の疲れを感じて軽く目を閉じる。背もたれに身体を預ければ、柔らかなソファが受け止めてくれたに違いない。ほっと吐いた息と一緒に肩の力も抜けて――そのまま眠ってしまった。

 そこまで容易に想像できた自分に驚く。意外と春臣さんのことを把握していたようだ。

「……お疲れ様です」

 せめてお風呂を勧めるべきかと悩んだけれど、こんなに疲れた顔をしているのに無理に起こすのも気が引ける。

 少し考え、毛布を取りに行った。
 中途半端に緩められたネクタイを解き、ためらったのちにシャツのボタンをふたつ外しておく。さすがにすべて着替えさせる勇気は私にない。
 ズボンは――と目を向けて、たっぷり五分悩んだ。

(苦しくなったらいけないし……)

 ベルトに手を伸ばし、恐る恐る外そうとしてみる。
 とんでもないことをしている自覚はあったけれど、それ以上に苦しそうだと思ってしまったのがいけない。そう思えばもう、見なかった振りはできなかった。

 自分でやっていて、なかなか危険な絵面だと思ってしまう。
 せめて春臣さんが起きないようにと思ったけれど――。

「……なにをしているんだ」
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