夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
「行ってらっしゃい。気を付けてくださいね」
「ああ」
側を離れるのは不安だ、と顔にありありと書いてある。
表情を読みづらい人だと思ったこともあったけれど、こういうときは本当にわかりやすい。
(嘘をついてごめんなさい。……嘘じゃないけど)
心の中で呟いて春臣さんを見送る。
あとは帰ってくるまでにベッドで眠っていればいいだけだった。
***
目を覚ました私はぎょっとした。
なぜ、春臣さんに抱き締められているのかわからない。
そもそもどうしてこの人までベッドに潜りこんでいるのか――。
「……ん、起きたのか?」
身じろぎをしたことで、同じく眠っていた春臣さんを起こしてしまったらしい。
あくびを噛み殺しながらも、私を離そうとはしなかった。
「体調は?」
「なんともないです。……どうしてここにいるんですか?」
「買い物なら海理に頼んだ。病人をひとりで家に置いていくよりいい」
「進さんは召使いじゃありませんよ。せっかく休日なのに迷惑かけるなんて、いくら幼馴染でもやりすぎです」
「いいんだ、海理だから」
「だからって……もう」
(あとで謝ろう……)
時計を見れば、ベッドに入ってから三十分も経っていない。完全に予定外の事態だった。
ここまでされてはもうどうしようもない。
諦めて、春臣さんが離れないのを受け入れる。