夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
短編:仕事中のふたり

「十三時からの会食ですが、予定を変更してほしいという連絡がありました」

 今しがた受けた電話の内容を春臣さんに伝える。
 デスクでパソコンに向かっていた春臣さんが、二時間振りに私の方を見た。

「急すぎる。理由は?」
「案件の責任者がインフルエンザだったそうです」
「……もう少し早く連絡できるだろう。もう十一時だぞ」
「さっき検査の結果が出たみたいですね。それで慌てて連絡してきたみたいです。代役を用意する時間もなかったんでしょうね」
「……今後の取引は一考の余地がありそうだな」

 溜息を吐いたのを聞いて、一瞬ぎょっとする。
 春臣さんは他人と距離を取りたがるとはいえ、基本的には面倒見がよく、優しい。
 それが仕事になると変わってしまう。公私混同が嫌いなのか、単純に割り切っているのか、ともかく情というものを切り捨てて物事を判断するのだ。

 秘書として仕事をするにあたり、そういった場面を何度も見てきた。
 逆に言えばそうでなければ社長など務まらないのかもしれない。
 自分でもおそらくそれをわかっているから、社交の場になると進さんに任せるのだろう。本人はひたすら実務をこなし、取捨選択を淡々とする。
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