夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~

(緊張するんだよね)

 仕事となれば、春臣さんは私のことも厳しい目で見た。
 ミスは細かく追及するし、納得いかない判断があれば納得するまで議論を深める。
 なのに、である。

「昼飯の予定は?」

 私の座るデスクまで春臣さんが近付いてくる。
 社長専用のデスクからはそう遠くない距離だけど、いつもこの足音に胸が騒いだ。
 春臣さんがこちらまで来るとき、仕事の用があるからというよりは、自分の欲求を優先させたいという理由の方が多いせいである。

「適当にお弁当でも買ってこようかと……」
「だったら、どこか行こう」

 椅子を勝手に引かれ、春臣さんの方を向かされる。
 たった今見せた冷たさはどこへやら、甘い甘いキスをされた。

「……仕事中ですよ」
「今、休憩に入った」
「職権乱用だと思います」
「何が悪いんだ?」

 手を引っ張られて来客用のソファまで連れて行かれる。
 柔らかすぎるそこに座らされ、春臣さんも隣に腰を下ろした。
 私に寄り添い、肩に頭を乗せてくる。
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