夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~

***

 家に着く頃になると私の気持ちも落ち着いていた。
 片時も離れず側についてくれる春臣さんへ、これ以上心配かけないように笑顔を作る。

「すみません。大丈夫だと思っていたんですが、だめだったみたいです」
「もっと俺が気にするべきだった」
「ううん、違うんです。……話しかけられる瞬間まで、男の人が苦手だったことを忘れていて」

 ずっと手を握ってくれていた春臣さんの手を握り返す。

「春臣さんがいてくれるから、いつも怖くなくて。進さんもいい人だし、全然なにも……」
「奈子」
「……言うこと、うまくまとまらないです」
「いいから」
「……これじゃ、ふさわしくないですね」

 声が勝手に震えた。
 顔を見られたくなくて、手で覆う。

「自分で対処しなきゃいけなかったのに、あのぐらいで……。情けないです……」

 また、春臣さんに抱き締められる。
 背中を撫でてくれる手のぬくもりに甘えて、その胸にすがった。
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