夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
 いつ転んでも支えられるよう、なるべく寄り添いながら部長を会場の外へ連れて行く。

「どうしてそこまで飲む羽目に……?」
「本社に友達がいてねぇ。あいつ、体育会系なんだよ……」
「あー……。グラスを空けると、すぐ注いでくるような……?」
「そうそう、ほんとそんな感じ」
「断りにくかったんですね」
「うん……」

(部長も大変だな……)

 友人という以上に、仕事での付き合いもあってここまで飲んでしまったのだろう。
 褒められたことではないけれど、責めることもできなかった。
 会場を出て、なるべく人がいなさそうな場所を探す。

「あ、向こうにバルコニーがあるみたいです。どうですか?」
「いいねぇ」

 さっきよりも反応が適当になっている。
 心なしか目もぼんやりしているように見えた。

「そういえばさっき聞いたんだけどね」

 バルコニーに出ながら、部長がふうっと息を吐く。

「社長が秘書を募集するつもりらしいよ。僕より給料が多いとかなんとか」
「それは……すごそうですね」

 部長の給料がいくらか知らないけれど『部長』というポストを考えれば破格なのは間違いない。
 少なくとも、私の倍以上は余裕で超えているだろう。

「なっちゃおうかなぁ……秘書……」
「酔いがさめてもそう思うなら、募集してみればいいんじゃないでしょうか」
「でも、こういうのっておじさんが来ても嬉しくないでしょ……」

 なぜかそんなことでしょんぼりし始めた部長は、バルコニーに備え付けられていたベンチへと腰を下ろした。

「いいな……秘書……」

(これはもう完全に酔ってるなぁ)

 何かあっても困ることを考え、とりあえず部長の側に控えておく。
 おかげで社長の挨拶を聞き損ねてしまったけれど、今日この場に来られなかった同僚たちへのいい笑い話になりそうだった。
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