夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
 私がドリンクを手に戻ると、なぜか部長がいた。

「あ、お帰りー」

(酔ってる……)

 少し離れている間にどれだけ飲んだのか、既にできあがってしまっている。

「さっきこの辺に袖川さんがいたよなーと思って来たんだけど、合っててよかったよ。いやぁ、久々に飲まされるともう歩けないね」
「大丈夫ですか……?」
「あんまり大丈夫じゃないかもしれないねぇ……」
「え……」
「みんなに内緒にしてよ。部長が酔い潰れました、なんて」

 一応、呂律ははっきりしている。
 でも時間の問題のように感じられた。

「……仕事で来てるのに、いいんですか?」
「よくないねぇ……」

 はあ、と部長が溜息を吐く。
 そうしたいのは私も同じだった。

「少し休んだ方がいいかもしれません。ここだと人がいて落ち着かないですし、ちょっと外に出ましょうか?」
「袖川さんは気が利くなぁ……」
「そう思うなら、次の給料を上げておいてください」
「えー?」
「そういう時だけ酔った振りはずるいです」
「あはは……」

 部長がゆっくりゆっくり立ち上がる。
 歩けないと言っていたけれど、ふらついて倒れるほどではないようだった。

「支え、必要ですか?」
「だめだよ、セクハラになっちゃう」
「そんなことを言ってる余裕があるならいいんですが」
「大丈夫大丈夫。ごめんねぇ」
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