夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
「えー! せめて心の準備をさせてくださいよ!」
「っていうか部長のその余裕、なんかヤなんですけど! 自分は確実に行けるからって!」

 文句が雨のように降り注いでも、部長はにこにこ笑っている。

「悔しかった君らも昇進しな」
「査定するの部長ですよね!」
「今期給料上げてくれなかったら恨みます」
「いっそ部長を亡き者にすれば……」
「はいはい。いいからクジ引いてね」

 みんな我先にと段ボール箱に手を突っ込んでいく。
 その勢いに乗り遅れた私は、最初でも最後でもない中途半端な時に引いた。

(課長も主任も平も関係なくたった一人だけ……)

 既にクジの結果を見た仲間たちの阿鼻叫喚の声を聞きながら、恐る恐る畳まれた紙を開く。

「…………あ」
「『あ』!?」

 よくランチを一緒にとる同僚の真苗が駆け寄ってくる。

「ちょっと、奈子ちゃん。今の『あ』ってもしかして……」
「う……うん」

 クジを持つ手が震える。
 だって、そこにはブルーのペンで丸が描かれていた。
 他のみんなが白紙の中、私だけ。

「ど……どうしよう……」
「すごいすごい! いいなー!」

 一緒に喜ぶ前に、まず衝撃が先に立つ。

(全然実感がないんだけど、これ……現実?)

 嬉しいという気持ちすらまだどこか遠くにいる。
 何度も何度もクジの結果を確認していると、別の同僚が部長に向かって声を上げた。

「部長ー、袖川さんが当たったらしいっすよー」
「あ、そうなんだ。おめでとう、袖川さん」
「は、はい」
「それじゃ、クジ回収ー」

 まだ現実感のない私を置き去りにして、部長はさっさと私のクジを回収する。
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