擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー
「亜里沙がそう言うのなら、手伝って」
いつもより少し早口なのは、照れているから?
彼の指示に従って食器洗い乾燥機の中にお皿や茶わんを並べていく。お鍋は手洗いをしたのを拭いて棚に仕舞った。
この何気ない共同作業に、ほんの少しだけふたりの未来の生活が見えた気がした。
今日は彼のいろんな表情が見られた。
家庭料理に飢えていることも分かった。
今まで手料理を食べたことがないとは考えにくいけれど、彼の場合は洋風で綺麗なものばかりだったのかもしれない。
亜里沙とて昼間の恵梨香との会話がなければ、普段は作らないお洒落なメニューにしていただろうから。
──もっとお料理習っておくんだったな。
茶わん蒸しの例のように母が作る料理は豪快だったけれど、思い返せばとてもあたたかくて人情があったのだ。
あんな料理が作れるのが理想だ。そうなると、まず目指すのは母の豪快料理か。
食洗器が働く音を聞きながらぼんやり考えていると、隣にいた彼が沈み込み、立ち上がるついでのようにさくっと膝裏を掬われた。
「きゃぁ」
突然抱えられ、目に映るものが天井と彼の端整な顔のみなり、ときめいているうちに運ばれてすとんと下された。
そこはリビングのソファの上で、彼が隣に座ると当たり前のように手を握ってくる。すました表情はとても余裕で、キッチンで照れていた彼とは同一人物に見えない。