擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー

 彼の頭の中にはすでにビジョンがあるようで、その中には人員整理も含まれている感じだ。

 やはり噂は本当で、結婚発表のときに彼が見せた厳しい表情には、冷徹社長と呼ばれる彼の姿が少しだけ出ていたのだろう。

「俺はYOTUBA自体を失くしたくないんだ。だから精いっぱい頑張るつもりだよ。亜里沙の部署は変えるつもりはないから、心配しなくていい」

 YOTUBAには目に見える経営危機はないけれど、業績は平たんで安定している。言いかえればまったく伸びがない。

 彼はそこを変えたいと言う。

「社員の意識改革。業務のスマート化。YOTUBAでやることはたくさんある」

 彼が亜里沙に向ける表情からは、冷たさや厳しさは感じられない。けれど会社をよくしたいという並々ならぬ決意は、十分に伝わってきた。

 彼は冷徹というよりも、至極真面目で一本気なだけかもしれない。

「すごくおいしかったよ。ごちそうさま」

 亜里沙の手料理をすべて平らげて、自分の食器と亜里沙の分までキッチンに運んでくれる。残った食器を持って慌てて追いかけると、シンクの前でストップをかけられた。

「俺が食器を洗うから、亜里沙は休んでて」

「一緒に洗うのは駄目なの?」

 彼ひとりに片づけをさせて、のんびり椅子に座っていられない。お願いするように見つめると、彼はふいっと目をそらしてしまった。

 心なしか耳が赤い……?
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