擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー

 そんな高スペックな彼に見合う妻になるには、助けてもらう一方じゃ駄目だ。彼を助けることもできなければ、誰もが認めてくれるような妻にはなれない。

 まだ見ぬ彼の両親には二つ返事で了承してもらえるような、頼れる女性にならねばいけないと思うのだ。

 だからもしも彼に話すならば、しっかり情報を掴んでからにする! そうだ、そうしよう。

 拳をグッと握って決意を固め、例の掃除婦について調べてみることにした。

 ──まずは彼女の正体を確かめるのが先決だよね。

 マスクに隠れた顔は見えないが、上品そうな仕草、独特な思考と言葉遣い、とっても思いあたる人物がいる。

 もしもその人ならば、目的を確かめて対策を練らねばならない。

 人違いであることを切に願いつつ、翌日も掃除婦が机を拭きに来るのを待っていた。

 さりげなく名を尋ねる。それが無理でも、なんとかして、なんらかの情報を得るつもりだ。

 会話の糸口を考えて何度も頭の中でシミュレーションをし、朝からじりじりそわそわしつつも待っていると、「失礼します」と声がかけられた。

 来た! 彼女だ!

「はいっ、どうぞ」

 臨戦態勢で振り向けば、そこにはふくよかな掃除婦がいた。

「あれ?」

 思わず声が漏れる。

 なんと彼女ではなく、代わりにいつものおばちゃんがやってきたのだった。
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