擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー
掃除の担当場所を交代したとばかり思っていたけれど、おばちゃんが休暇を取っていただけ?
拍子抜けしてがっくりと肩を落とすと、おばちゃんが首を傾げた。
「なんか、おかしいことがありましたか?」
「ああ、はい。いえ、おかしくはないんですけど……昨日は若い人が来たんですが、今日は違ったから……あの、彼女はお休みなんですか?」
「はい? 若い人って、誰のことですかね?」
おばちゃんはきょとんとして亜里沙を見る。
──あれ? もしかしたら知らないこともあり得る? なんで?
「はい、多分、私と同じくらいの年齢なんですけど、……ひょっとして、知りませんか?」
「う~ん、若い子ねえ、会社にはあなたくらいの子も多いから……」
おばちゃんは目を瞑って唸っている。年齢が若いという情報だけでは足りないのだ。
「言葉遣いが上品っぽい感じの……」
亜里沙がそう付け加えると、おばちゃんはぽんっと手を打った。
「ああ! 若い子って、あの臨時雇いの子かい! そうですか、昨日はあの子がここに来たんですか」
そう言っておばちゃんは人のよさそうな顔を少し歪めた。
「今日は水回りのほうを掃除してますよ」
YOTUBA担当なのは変更ないみたいだ。
「……あの、彼女は臨時雇いなんですか?」
「そう。うちの社長の知り合いらしいんですよ~。社員募集してなかったはずなんですけどね。なんでも、どうしても社長室の……」