擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー
そこまで言うとおばちゃんはハッとして口をつぐんだ。口が滑ったとばかりに周りをきょろきょろと見回して、誰も見ていないことを確認するとホッと息を漏らす。
態度はすごく意味あげで、亜里沙の不安感をあおった。
「ああ、そうだ。あなた、あの子の知り合いなら、言ってくれませんか。清掃の仕事に向いてないよって。もっとお上品な仕事が合うよって」
おばちゃんが声を潜めるから、亜里沙も最大限に声を小さくした。
「知り合いってほどでもないんです。けど、会ったら必ずことづけますから、ひとつだけ教えてくださいませんか」
肯定の意なのか、おばちゃんは無言のままじっと見てくるから、亜里沙はさらに声を小さくした。
「その、〝社長室の〟というのはどこの会社の?」
「ああ、それですか……私が言ったって、内緒にしてくれるなら……いいですか?」
言い淀むおばちゃんに、亜里沙は極力真剣な顔を作ってこくこくと頷いて見せる。
「絶対、誰にも言いません」
おばちゃんは少し周囲を見回してコホンと咳をしたあと、亜里沙に顔を近づけた。
「この会社です。トップの部屋に興味があるなんてねえ、なにを考えてんだか……私らはちょっと怖いんですよ」
胸のうちに仕舞いかねているのだろう、感情が露わになって愚痴が零れている。
渋い顔つきで言う様子は、若い掃除婦のことを快く思っていないのがありありとうかがえた。