擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー

「じゃあ、お願いしますよ!」

 そう言うとそそくさと別のデスクに向かっていった。

 YOTUBAの社長室に興味がある掃除婦。しかも臨時雇いされた話の流れは、なにかの目的があってこの仕事を選んだようにも聞こえた。

 そして亜里沙を恨んでいるような態度を取っていた。……考えれば考えるほどに、たいそう不気味である。

 ──〝社長室の〟に続く言葉はなに? ひょっとして〝掃除したい〟なの? それはどうして?

 またまた言い様のない不安感が、もやもやと胸に押し広がる。やはり掃除婦は亜里沙が思い浮かべている人物なのか。

 でもしかし、そうと決まったわけではない。しっかり確かめもしないで勝手に不安になるのはよくない。

 そう思っても、まるで胸の中に鉛が詰まっているような、重くずっしりした気分になる。

 ──なんとかしなくちゃ。でも、どうやって?

 亜里沙の身のうちに蔓延する靄を払しょくするような、カラカラと明るく笑う声が聞こえて来た。高橋のデスクをふくおばちゃんの笑い声だ。

「いやですよ~。あなたも気になるんですか」

「いや、気になると言うか……違うな、かなり気にしていますね」

 冷静な高橋にしては珍しく動揺している感じだ。

 その様子を見ておばちゃんは更に笑う。

「それで、彼女は今日は休みなんですか?」
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