擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー
美しく微笑んでいるけれど、なんだか残念そうに唇を歪めているようにも見える。
──口調のせいかな?
「彼女はすでに私の妻ですよ。今日は結婚指輪を求めに来たんです。亜里沙、こちらはイベント会社を経営されている相良さんだよ」
「はじめまして、香坂の妻の亜里沙です。お見知りおきください」
丁寧に頭を下げると、相良は値踏みする様に亜里沙を見た。
「まあ、香坂さんにしては、随分平凡なお嬢さんを選ばれましたのね。でもそれが一番よろしいかもしれないわ」
やっぱり残念そうに言っているような気がする。
「相良さんはアクセサリーをお求めに来られたんですか?」
自分のことから話をそらしたくなり、里沙が問いかけた。彼女の指には大きなコバルト色の宝石が光っている。
「ええ、お気に入りのジュエリーデザイナーが新作を発表されたので、見にきましたの。とても個性的で美しいデザインをされるから、奥さまにもオススメするわ。一緒にどうかしら?」
「ありがとうございます。また次回にします。今は、主人と一緒なので」
〝主人〟という言葉を使用するのは初めてで、気恥ずかしい。ポッと頬を赤らめて少し俯いた。
「あらまあ、かわいらしい奥さまですね。では、残念ですけど、またの機会にしましょう」
社交辞令の微笑みを亜里沙に向けた後、相良は彼に向き直った。