擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー
「いえ、謝るのは俺の方で……電話に集中していてまったく気づきませんでした。……大丈夫ですか? どこか痛いところはないですか」

「痛いところはありませんけど、服が……それに、あなたも汚れてしまってるわ」

 亜里沙が着ている花柄のリゾートワンピースは、茶色で染まっている。彼の白いシャツもまだらに茶色く汚れていた。

「ああ~、これは俺が持ってた珈琲だな……」

 残念そうに言った後、ハッとなにかを思い出したかのように手元を見て、地面に視線をさまよわせている。

 そして少し離れた位置にある四角い物体に目を留めて、さっと拾い上げた。

「それ、あなたのスマホですか?」

「ああ。あなたとぶつかる前まで通話中だったんです。だけど、これじゃもう電話は無理だな」

 彼のスマホの液晶画面には、蜘蛛の巣のような細かいヒビが入っている。

 電源が入っているのがかろうじて分かる程度で、アプリのアイコンはぐしゃぐしゃになっていて判別できない。

「咄嗟だったから、投げ捨てたのが悪かったんだな。これは再起不能だ」

 壊れた画面を見て苦笑する彼に、亜里沙は自分のスマホをバッグから取り出して差し出した。

「大事な電話だったんですか? お相手の電話番号が分かるなら、私のスマホを使ってください」

 亜里沙のピンク色のスマホを見て、逡巡した様子の彼はにこっと笑った。

 その爽やかな笑顔に、亜里沙の胸がとくんと脈打つ。
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