擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー
 改めて見れば、彼はスマートな八頭身の体型で整った顔立ちをしており、白シャツにチノパンのカジュアルなスタイルでも普通の男性にはない華があるように見える。

 ──ひょっとして、タレントさんだったりするの?

 でもその割には、周りにいる自撮り女子たちの反応がない。

 有名な人ならば、あの中の一人は気がつきそうなのに。

「いいえ、どうぞ仕舞ってください。番号を記憶してませんので。電話が通じなければメールが入るでしょうから、後程パソコンで確認します」

 そう言って彼は壊れたスマホをポケットに仕舞った。

「それよりも、あなたを汚してしまったお詫びをさせてください。俺の泊まってるホテルがすぐそこなので、シャワーを浴びてください。服も弁償させていただきますよ」

「いえ、そんな。これくらい大丈夫です。宿に帰ってお風呂に入りますから。服は安価なものですし、着替えもありますし」

 服が汚れているから、このまま歩くのは正直に言えばとても恥ずかしい。

 それに服だけでなく、髪も肌も茶色に汚れている筈だ。
 
 好きな珈琲の匂いとはいえ自分の体から臭うのは気持ち悪く、早く洗い流したいとは思う。

 でも、見ず知らずの人の宿に行ってシャワーを借りるのは気が引ける。

「あなたの宿はどこですか? この近く?」

「海岸線の端にある『小浜館』です」

 亜里沙が宿の方向を指さして言うと、彼は端正な顔を歪めた。
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