こんなにも愛しているのに〜それから
樹と茉里のそれから

樹の想い

シンガポールまでの飛行機の中
贅沢にも
ビジネスクラスを手配してもらって
袖触れ合う他人もおらず
ゆっくりと
今までのこと
これからのことを
思い
考えることができた。

43歳にもなろうとしているのに
自分の身の上に起きた
ここ数ヶ月の
情けない出来事。

この春
晴れて高校生になった
娘、ましろに見られた
ラブホテル前の俺と部下斉木の姿。
好きで好きで一緒になった
妻茉里を
10年ほども苦しませ
そのことに
目を向けたなかった俺の醜い姿。

結局
妻と娘からは三行半を突きつけられたが
妻に縋りつき
多分
なりふり構わずに縋りつたいと思うが
妻の中に僅かに残っていた
俺への情けを
狡いと言われようが
そこに
縋り付いて
首の皮一枚で
繋がっているという今がある。

しかし
娘ましろには
あの日から
今日まで
言葉を交わすどころか
会えないままだ。

手帳の中に
一番幸せだった時の
俺と茉里と2歳の頃の
ましろの写真がある。

ましろの無垢な可愛さ
俺と茉里の揺るぎない結びつきが
見て取れる俺たちの笑顔。

全てを
壊したのは俺だというのに
悪あがきを見せて
かろうじて
籍だけは繋がっている。

多くの不安を残しながらも
茉里がしばらく離れて
自分たちのことを考える
いい機会
だと
俺の海外への赴任の
後押しをしてくれた。

もちろん

茉里達と離れることは
したくないことで
避けたいことだったが
もしかしたら
この硬直した状況を
距離を取ることで
いい方向に向かうことが
できるかもしれないと思い、
一人赴任先のシンガポールに向かっている。
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