こんなにも愛しているのに〜それから
自分たちの他にも
大きな問題があった。

俺の両親だ。

会社を辞めてシンガポールへ
赴任することを黙っているわけには
いかなかった。

今回の件は
俺の失態を含め
離婚話が上がっていることは
茉里が
’言わないでおきましょう。’
と言ってくれたので
転職のことだけを
告げた。

茉里にも
母親の性格からして
逆上して
スムーズに話が進まないことを
理解してくれた上のことだ。

両親に告げた時
案の定
母親が逆上した。

林田との繋がりを美化して
考えているのと
転職して単身シンガポールへ行くのを
含め
全てが茉里のせいのように
詰ってきた。

母とのこういうやりとりは
いつも
うんざりとしていた。
茉里が一緒でなくってよかった。

しかし
俺の留守中に茉里に直接会われて
責められるのも困る。
母には釘を刺しておかなければならない。

「いい加減にしてくれよ。
茉里のせいでもなんでもなく
これは
俺のわがままから来た話で
茉里やましろは言わば犠牲者なんだよ。

もう
決めたことだから
一応
知らせておく。

それから
このことで茉里に見当違いのことを
言わないように。
茉里にはなんの責任もない。」

母は俺が茉里の肩ばかり持つと
不平不満をだらだと続けた。
父は母がこんなふうになると
聞く耳を持たないこと知っているので
相変わらずだんまりを
決め込んでいるかと
思ったら
徐に母に向かって言った。

「いい加減にしないか。
樹もいい歳だ。
これからのことを考えて、
夫婦で話し合って決めたんだ。
私たちがいろいろと言う筋合いでも
ないだろう。
茉里さんもしっかりと樹を支えてくれている。
もうあれこれと、口汚く罵るのは止めなさい。
みっともない。」

普段
父から叱責などされたことがない母は
この時
あまりの驚きに呆然としていた。
父は
身体に気をつけて
茉里さんはしっかりとした人だが
何か困ったことがあったら
いつでも私に相談してくれていいから

初めて
茉里を気遣う言葉をくれた。

それから
真っ赤になって噴火寸前の母を見て
母さんがうるさいから早く帰りなさいと
言ってくれた。

父は俺の転職や海外赴任の話に
何か
思うところがあったのかもしれない。

それよりも
茉里のことを気遣ってくれたのが
何よりもうれしかった。





< 11 / 61 >

この作品をシェア

pagetop