こんなにも愛しているのに〜それから
茉里へ

今シンガポールへ向かう空の上にいる。
あと2、3時間もしたら目的地に着くと思う。
飛行機の中で
やっとひとり、ゆっくりと
考える時間ができた。
いろいろなことを思い出している。
懐かしく愛おしいことから
思い出したくないほど
辛く醜いことまで。

今まで
自分の醜さから目を背けていた。
しかし
そのことが取り返しの
つかないことへと繋がり
茉里を言葉では言い表せないほどに
苦しめることになってしまった。

その目を背けてきて
地中奥深くに埋めたはずの
深野に先日会った。
何も知らない三谷を通じて
俺が呼び出され
騙し打ちのように会わされたと
言ったほうがいいような会い方だった。

深野を見た途端
帰ろうかと思ったが
躊躇いもなく呼び止められて
渋々深野の前に座った。

そうだ
今日であの出来事にはっきりと
終止符を打とうと、
思った。
地中から地上へ出すときが来た。
はっきりと葬り去るときが来た。
と俺は思い直した。

深野は相変わらず深野だった。
俺と三谷とを自分の会社に
スカウトするために
上京したらしい。
もちろん
俺たちは迷いもなく断った。

三谷が中座して二人になった時
あの日の出来事を蒸し返された。
男として
俺は謝罪したが
気づいたんだ。
何であんな事態になったのか
何一つ覚えていない自分に。

深野を見ても
何も心を動かされなかった。
男としては鬼畜か?
いや
俺は傷ついたんだ。
あの日。
深野もそうかもしれないが。

茉里
決して
気持ちがいい話ではないと思う。

もしかしたら
全部読まずに消去されるかもしれない。

けど
言い訳でも何でもなく
俺が間違いを起こしたと言う事実以外
何も記憶に残ってはいない。

深野に心を動かされたわけでもなく
酔った勢いでそうなったわけでもない
と言える。
ただ
何もわからない

人が聞いたら
ふざけた事をと言われるかもしれないが
本当にそうなんだ。

俺がわかったことといえば
醜いことをしてしまった。
ということ。
今まで
そんな醜い自分を知りたくなくって
過去に蓋をしていた。

茉里を苦しめてごめん。
ごめん。

茉里しかいないのに。
< 26 / 61 >

この作品をシェア

pagetop