こんなにも愛しているのに〜それから

またねと言える

私たちが暮らした家から
最後の荷物を出す日
則文も私を見送るためにいた。

私が出た後に
子供と二人
実家へ移ることになっていた。

「いざこれが最後となると
センチメンタルになってしまうね。
ここで
あの子が生まれて
私たちが家族になった家ですものね。

ありがとうって。

私を正気にさせてくれて
ありがとうって言いたい。

この家にも
家族にも。。。」

「僕も言いたい。
ありがとうって。
ヨシが僕の人生に現れてくれて
ありがとうって。」

「もう
最後まで優しいこと言ってくれるんだから。」

「ヨシ
本当にありがとう。」

改まって則文が言う。

お礼を言うのは私だよ。
これまで
ありがとう。
いつも
ありがとう。

握手をしようと手を差し出した。

則文は躊躇わずに
私の手を取ると
少し引いて
私を抱きしめた。

ちょっと
驚いて
ちょっとうれしくて
則文の顔を見上げた。

則文の顔が近づき
そっと
私にキスをした。

則文が囁く。

「ヨシ、がいる。」
< 58 / 61 >

この作品をシェア

pagetop