離婚前提。クールな社長と契約妻のとろ甘新婚生活

「じゃ、私はこれで」


香織と入れ違いに素早く立ち去る。
歳が離れているとはいえ、美咲にとっても香織は幼馴染。だが、相手の都合もおかまいなしに自由気ままに振る舞う香織を美咲は苦手である。
香織は、人のペースを崩す達人なのだ。


「あっ、美咲さん!」


香織が美咲も見つけて手を振るが、美咲は指先をひらひらとだけしてエレベーターの扉を閉じた。にこやかな表情を浮かべる陰で、おそらく閉ボタンを連打していただろう。


「こんなところまで来てどうしたんだ」
「だって、千景さんがぜーんぜん会ってくれないから。おじさまから聞いたでしょ? 結婚の話」
「香織、その話なら断――」
「わーわーわー、聞こえませーん」


断ったはずだと言おうとするが、香織は両手で耳を塞いで聞こえないふりをする。まったく聞く耳を持たない。
長い髪を胸もとでカールさせ、色白でパッチリとした目もとはフランス人形のようだが、千景でも扱うのに苦労する。


「ともかく俺は急ぐから」
「私もお供します」
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