いきなり婚─目覚めたら人の妻?!─
私は無意識のうちに安藤部長の背中に自ら腕を回しかけて我に返り、あわててその手を引っ込めた。

自分の行動に焦りながら車を降りると、安藤部長は少し名残惜しそうな目で私を見たあと、軽く右手を振って帰っていった。

安藤部長を喜ばせるような気の利いた言葉も言えないし、可愛らしく甘えたりもしないのに、どうして安藤部長は私と一緒にいたいと言ってくれるんだろう?


入浴を済ませてベッドに入り目を閉じると、安藤部長の笑った顔や、まっすぐに私を見つめる眼差し、そして砂浜でのキスを思い出してしまい、悶絶して何度も寝返りを打った。

私に向けられる安藤部長の言葉や表情、行動のひとつひとつが日に日に甘くなる。

今までこんな風に甘やかされた経験がない私は、安藤部長の甘さと優しさにうろたえ戸惑ってばかりだ。

好きになって結婚したわけでもないのに、どうして私にこんなに優しくしてくれるんだろうとか、安藤部長はどういうつもりで私にキスなんかするんだろうとか、そんなことばかり考えて眠れなくなり、ようやく眠りについたのは東の空がほんの少し白みかけた頃だった。

こんなに激しく心を揺さぶられたら、あっという間に気持ちをまるごと持っていかれてしまいそうで、少し怖い。




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