いきなり婚─目覚めたら人の妻?!─
あんなに甘い顔をされたら、とてもじゃないけど平常心を保てる自信がない。

現に私の心臓は口から飛び出さんばかりに大暴走していて、身体中が熱く火照って、頭の中は大混乱している。

……ダメだ、お風呂にでも入って少し落ち着こう。

浴室でシャワーの栓をひねり、目を閉じて頭からお湯をかぶった瞬間、切れ長の目で私をじっと見つめながら迫ってくる安藤部長の姿が脳内再生された。

それと同時に、触れ合った唇の柔らかさや、私の肌を撫でた大きな手の感触、抱きしめられたときに伝わってきた体温や息遣いまでもがリアルに蘇る。

焦って開いた目に思いきりお湯が入ってしまい、あわててシャワーを止めた。

好きになる気なんてまったくないのに、安藤部長のことばかり考えてしまう。

どんなにかき消そうとあがいても、安藤部長は私の脳内に居座って、笑みを浮かべながら甘い声で私を呼んで、優しい目で私を見つめる。

私の頭の中がすでに安藤部長でいっぱいになっていることは、もう自分に対してごまかしようがない。

「勘弁してよ……」

目元を手で覆いながらため息混じりに力なく呟いた私の声が、静かな浴室に響いた。




< 190 / 991 >

この作品をシェア

pagetop