いきなり婚─目覚めたら人の妻?!─
ファイルを受け取り中身を確認して早速事務処理を始めたところで、あわてて帰社した荒木さんにも事務処理を頼まれた。

あと数分で終業のチャイムが鳴る。

今日は久々に残業確定だから残業を理由に夕飯を断ろうかと思ったけれど、この仕事量ではそこまでの時間はかかりそうもない。

断る理由も見つからないし、しかたがないから仕事が終わったら帰って晩御飯の支度をしよう。

安藤部長が来ても、いつも通り何食わぬ顔で食事をすればいいだけだ。


1時間ほど残業してオフィスを出ようとしたとき、スラリとした美人がやって来て安藤部長に声をかけた。

どこかで見たことがあると思ったら、その美人はゆうべ安藤部長と一緒にいた女性だった。

私が人の顔や名前を覚えるのが苦手だと言うこともあるのだけど、うちの会社にあんな綺麗な人がいたとは知らなかった。

二人は楽しそうに笑いながら、連れだって隣の会議室に向かった。

私がその前を通ったときには、完全に閉まりきっていないドアの向こうから、楽しそうに談笑する声と、その女性が安藤部長を『創』と呼ぶ声がもれ聞こえた。

名前で呼び合うほど親しい仲なんだな。

やっぱりイケメンの安藤部長には綺麗な人がお似合いだ。

お世辞にも美人とは言えない地味な私なんかじゃ、あの人の足元にも及ばない。

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