いきなり婚─目覚めたら人の妻?!─
無事に荷物の搬入が済んでひと息ついたあと、諸々の手続きをするために出掛け、駅前の判子屋さんで『安藤』の判子を買った。

入籍したあともずっと『小柴』と名乗っていたのでなかなか実感が湧かなかったけど、判子ひとつで苗字が『小柴』から『安藤』に変わったのだと実感するから不思議だ。

真新しい判子を持って、役所や銀行、旅券事務所などをめぐり諸々の手続きを済ませた。

その頃にはすっかり日が傾き、辺りが薄暗くなり始めていた。

今日は無理して夕飯を作らなくてもいいと言われたけれど、昨日も外食だったし、やっぱり作ろうかな。

電車を降りて買い物して帰ろうと思いながら歩いていると、これから家路に就こうとしているであろう多くのサラリーマンに遭遇する。

この時間はまずい。

うちの会社も定時を過ぎたところだ。

航太はきっと私からお金を受け取れると信じて、定時で会社を出てアパートに向かうだろう。

下手にうろついて航太に出くわしたらめんどくさいことになるので、私は買い物をあきらめ急ぎ足で駅から離れた。


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