副社長の歪んだ求愛 〜契約婚約者の役、返上させてください〜
「ちょっと、篠原さん。顔を上げてください」

「いや。君がいいと言うまでは、上げられない」

「……それ、篠原さんの常套句ですよね?」

「いいや、違う。誠心誠意お願いしてるんだ」

真剣なのか、ふざけてるのか……篠原さんとはこういう人なのだ。

片山さんが無理となると誰が……と考えた時、誰も思い浮かばなかったのは、ある意味仕方がないかもしれない。
シングルマザーの社員さんに、時間外になる仕事を頼むのは難しい。
他に……能力重視の採用が多く、クセのある社員が多数。
悪い人はいないんだけど、こういうことを頼めそうにはない。
社交の場を任せられる人材は、私にも思いつかない。

かと言って、私は社交の場が苦手だ。
そういう場が好きで、自ら同行を希望していたのが片山さんだ。
片山さんは、社長秘書を務めている。
本来なら、社長がもっとパーティーに出るべきだろうけど、一切出たがらない。

逆に、副社長の篠原さんは、人たらしという言葉がぴったりの人物で、社長に代わって公の場は全て引き受けている。
本来、副社長が出席するなら私が同行するところだけど、片山さんが名乗り出てくれた上に、社長が許可をしてくれたので、任せてしまっていた。
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