副社長の歪んだ求愛 〜契約婚約者の役、返上させてください〜
「美鈴の実家って、確か静岡って言ってたね?僕も、美鈴の暮らした街を見てみたいよ」

「えっ?」

戸惑う私に気付いていないのか、それともわかっていてあえて気付かないふりをしているのか、啓太さんは話を切り替えた。

「忙しい美鈴に声をかけるのは申し訳ないんだけど、たまに休日のデートに付き合ってもらってもいいかな?」

「えっ、あっああ。婚約者役のですね?大丈夫ですよ。勉強といっても、差し迫った何かがあるわけでもないので」

「よかった。早速なんだけど、次の土曜日の都合はどう?」

「あいてますよ。何かあるんですか?」

「その日、前に話した行きつけのバーに連れて行きたくて。〝やどり木〟っていう店なんだけど、ピアノの生演奏が聴けるんだ。実はまだ、僕は生演奏の日には行ったことがなくてね。
そのピアニストが、僕の知り合いの社長の奥さんなんだけど、羽山音楽スタジオの生徒だった人なんだ」

「そうなんですか?」

「ああ。生演奏のある日は席が予約制で、なかなか取れないんだけど、その日はたまたま押さえることができたから、一緒に行きたくて」

付き合っていることを広めるためとはいえ、〝一緒に行きたくて〟なんて言われると、なんだか嬉しくなる。

「ぜひ連れて行ってください」

「よかった。それじゃあ、詳しいことはまた連絡するよ」

「はい」

「よい週末を」

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