夜空に君という名のスピカを探して。
『じゃあさ、ここの文は――』


 私は考えた一文を言葉にする。

それを彼は一言一句違えずに、パソコンに打ち込んでくれた。


【私たちはきっと、おなじなんだ。最初からふたりでひとつだったみたいに似すぎている。】


 鏡像のように、自分自身と対面しているような感覚に近い。

似ているからこそ苛立ったり、ほっとけなくて必死に守りたいと思った。

 こんなふうに、私たちは綴られる言葉の中で会話していた。

あぁ、あのときはこんなふうに考えてくれていたんだと、宙くんの心を身近に感じる。

離れていることのほうが不自然なように、内側から溶け合うようなそんな一体感。失うことは考えられない。

もし死後の世界――極楽浄土が実在したとして、そこで次の人生を歩むのだとしても。

彼と離れ離れになってしまったら、私の心はきっと半分死んでしまうのだろう。

 そしてこの日、家に帰っていつものようにベットで眠りついたのだが……。

私は五日間眠ってしまい、気づけば五月。ゴールデンウイークに入っていた。


『ん……うぅ』


 目を覚ますと、そばで「楓か!」という宙くんの慌てた声が聞こえる。

強い眠気にまたもや意識が飛びそうになったが、必死に気を強く持った。

 やがて頭が少しはっきりしてきたところで、世界が燃えるような赤に染まっていることに気づく。

いつの夕暮れだろうか。

目が覚めるたびに進んでいる時間、日にちの数だけ不安になる。もう二度と、君に会えないのではないかと怖くなる。


 小説も終盤に差しかかり、ラストを残して完成が見えてきたところだ。

書き終えるまでは、まだ消えられない。

たぶん、その気力だけで私は宙くんの中にいるのかもしれない。

でもこの小説を書き終えたら、私はきっと消えてしまう。そんな予感がしていた。


「楓、心配させるなよ!」

『ごめん……私、今度はどれくらい眠ってた?』

「三日だ」


 ということは、ゴールデンウイークの最終日まで私は眠ってしまっていたらしい。

明日から宙くんも学校なので、まとまった執筆時間がとれるのは今日までだ。

なんとしても、書き上げなければならない。


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