夜空に君という名のスピカを探して。
「おい幽霊、俺は普通じゃないか?」

 再度問いかけられ、私は深呼吸をして慎重に口を開いた。

『なにが普通かなんて、私にはそんな無責任なこと言えないけど……』


 ひと言ひと言を大切に言葉にする。

うまく私の気持ちが届きますように、傷ついて欲しいんじゃない。

少しでも加賀見くんの悲しみを軽くしてあげたらと思いを紡ぐ。


『加賀見くんって、なにをするにしても会社の跡取りには必要ないことだって言うじゃない? でも、それだけの理由で物事の必要性を決めちゃうなんて視野が狭いと思う』


 極端すぎるのだ。

自分にとって必要か否かを決めるのは、もっと多くを見聞きしてからでも遅くはないと思う。

例えば友達もそうだ。

一緒にいて時間を重ねて初めて、自分にとって大切な人かどうかを見極めたらいい。

初めからいらないと決めつけるのは、早計すぎると思う。


「でも俺は目先の娯楽に逃げるより、もっと先を見て時間は使うべきだと思う」

『娯楽に逃げるって考えるから、加賀見くんは頭が固いんだよ』


 彼はしっかり者だけれど、あえて言おう。

つまらなくて、寂しい人間だ。

先を見すぎて、今そばにある大切な時間や人に気づけていないのだから。


「じゃあ、どう考えればいいんだよ」

『その前に逆に聞きたいんだけど、加賀見くんが勉強の時間を削って楽しんだ経験が将来に役立たないってどうして断言できるの?』

「経営者に経営学を学ぶこと以外のスキルが、求められてるとは思わないからだ」

『本当にそうかな? 加賀見くんの楽しい、悲しい、嬉しいって気持ちが夢に彩りをくれることだってあると思わない?」


 少なくとも、私はそうだった。

文化祭で書いた私の脚本で皆が感動してくれた瞬間に、心の底から嬉しいと思ったからこそ、物書きになりたいという夢が生まれた。


『きっと、加賀見くんが今だからこそ経験しなきゃいけないことがあるはずだよ。大人になったときに、学生時代に全力で楽しんで、悩んで、悔しい思いをした記憶が、こういう自分になりたいって思わせてくれるんだと思う』


 私の話を聞いていた加賀見くんは顎に手を当てて、じっと天井を見つめていた。

そしておもむろに起き上がると、机の前に座って備えつけのライトをつける。

彼の予測不可能な行動に驚きながら、おずおずと尋ねる。


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