悔しいけど好き
「お前は袴田専務を殴った。これは暴行罪に当たる。これを理由に袴田専務はお前を訴えることもできる」
「…」
「でもそれはあいつが…!」
山本さんは俺を擁護しようと口を挟むが部長が一瞥して口を閉ざさせた。
「どんな理由があっても暴力はいけない。相手は仮にもこの社の専務だ、よってお前には上司としての処分を言い渡す」
「…はい」
部長の目を見て小さく頷いた。
どんな処分が下ろうと奴を殴ったことに後悔はない。
それで降格処分になろうが懲戒免職になろうが俺は甘んじてそれを受ける。
凪が受けた屈辱に比べたら小さなことだ。
「お前には一週間の出勤停止、自宅謹慎を言い渡す。今すぐ家に帰れ」
「…え?」
余りに軽い処分にぽかんと口を開けて部長を見やった。
「お前の家はどこだっけか…ああ、今は羽柴と同棲してたんだったな?羽柴も暫くは出勤できないだろう」
ハッとして目を見開く。
部長が何を言いたいのか分かって息を呑んだ。
「後の事は俺たちに任せろ。早く行け、羽柴を労われよ」
にやりと笑う正木部長に感謝の念を込めて一礼すると俺は踵を返し会議室を飛び出した。
一度自分のデスクに戻り荷物を持つと美玖さんが近付いてきた。
「神城くん…帰るの?」
「ああ、はい。美玖さんすいません。凪の様子は…」
「それが……ううん、直ぐに行ってあげて、きっと凪ちゃん心細いと思うから」
「はい、すいません。後頼みます」
一瞬言い淀んだ美玖さんは首を横にふり、俺の目を見て頷いた。
頷き返してオフィスを出ていく。
とにかく早く凪の顔が見たくて俺は走った。