悔しいけど好き
中から讃美歌が聞こえてきた。

ゆっくりと扉が開き一礼すると一歩一歩お父さんと足並み揃え進んでいく。
参列してくれた笑顔の面々に見守られ、その先には見慣れたはずの鷹臣が立っている。
シルバーのタキシードを身にまとったその姿はいつにも増して素敵で息を呑んだ。

まるでおとぎ話に出てくる王子様みたい。

…とまでは言わないけど、

今だけは私の王子様
そして私は今だけお姫様になって鷹臣の元へとお嫁に行くのだ。

余裕の表情で笑っているように見えた鷹臣の前に立つとその目には涙が滲んでいた。

「凪…綺麗だ」

少し震えた声でそっと話しかけられ私も涙を誘われた。
はにかみ笑顔を向ければ最高にとろける鷹臣の微笑みにこの上なく幸せを感じる。

見つめ合っていると、コホンと咳払いが聞こえ神父様が苦笑いを浮かべていた。

「始めても、よろしいかな?」

クスクスと参列者から笑い声も聞こえる。
どうやら時間を忘れて見つめ合い過ぎたらしい。

鷹臣と二人苦笑いで神父様に向き直った。

神父様の後ろにはキラキラと光るステンドグラスが教会内を照らしている。

私はこの日の光景を一生忘れない。
それは鷹臣も同じで、きっと二人で何度でも思い出話に花を咲かせるのだ。


何年も
何十年先もずっと…ずっと…



END


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