最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
皇帝にならなければナタリアを妻にすることはできなかった。しかし今はその玉座がふたりの救済の道を阻んでいる。
燻るようなジレンマに耐えかねて、イヴァンはソファから立ち上がった。
「少し頭痛がする、疲れが出たのかもしれん。居間で仮眠をとるからナタリアが書庫から戻ったら起こしてくれ」
額を手で押さえながら言うと、オルロフがすぐさま「薬をお持ちしますか?」と気遣った。
イヴァンはそれに黙って首を横に振り、ヴァイオリンの音色が流れる広間を後にした。
――三日後。案の定、ナタリアをこのままイルジアで養生させるべきだという意見が、彼女の側近から上奏されるようになった。
侍女も相談役もみな、ナタリアを心から思ってのことだろう。けれどイヴァンが首を縦に振ることはなかった。
誰の目から見てもイルジアで過ごすことがナタリアのためになるというのに、頑なに了承しないイヴァンにひっそりと非難の目が向けられる。
「皇帝陛下はご自分のお立場のことしか考えられていないのだわ。皇后陛下のことを本当に思うのならば、英断も必要でしょうに」
「皇帝陛下はああ見えて寂しがりでいらっしゃるのよ。皇后陛下が共にいらっしゃらないと、ひとりでお眠りになることもできないのだわ」