最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
「ああ、スヴィーニン夫人だったか。この度は同行、ご苦労。……それで、何故あなたがオイルを?」
ガンオイルの入った瓶を受けとりながら、イヴァンが尋ねる。するとジーナは栗色の髪を揺らしニコリと微笑んで小首を傾げた。
「陛下とお話できる機会を窺っておりました。そうしたらちょうど侍従がそれを陛下のもとへお届けに向かうところでしたので、そのお役目を譲っていただきましたの」
珍しい女もいるものだと、イヴァンはジーナの話を聞きながらオイルを布切れに染み込ませていく。
美丈夫なイヴァンは昔から女性の羨望の的だったが、ナタリアとの婚約を発表してからは彼に恋の誘いをかけるものはすっかりいなくなった。
というのも、大臣たちの反対を押し切ってまで婚約を強行するほどイヴァンがナタリアを溺愛していることが、宮廷内外に知られたからだ。
公の場でもイヴァンがナタリアを大切に扱っていることは一目瞭然で、彼に恋していた貴族の娘たちは揃って涙を流したという。
それにくわえ、ナタリアとの結婚を反対していた大臣が別の貴族の娘を斡旋しようとしたところ、イヴァンが激怒したという噂もあって、彼とナタリアの間に入り込もうなどと愚かなことを企む女性はまったくいなくなったのだった。
そんな状況の中、まさか新婚旅行中に色目を使ってくる女性がいようとは。イヴァンは呆れの中に驚きも交えつつ、黙々と銃身を布で磨いた。