最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
苛立ちを含んだその言葉に、オルロフはたまらなく苦しい気持ちになって口を噤んだ。
イヴァンはこの状況に怒りを感じている。大事な外交相手の前で大恥をかくことになってしまったこの状況に。
その怒りの対象は親衛隊長でもなければ、もちろんナタリアでもない。
ナタリアから目を離してしまった自分に対してだ。そばにいながら一瞬でも彼女を守れなかった自分が、許せなかった。
きっと今頃プロセス王国の外交団たちは、ナタリアの奇行についてあれこれ言っているに違いない。
大切な妻が揶揄されることは、何度経験したってつらい。自分が非難される方が百倍はマシだと何度痛感したことだろう。
彼女を危険な目に遭わせたうえ名誉まで損なわせることになってしまった罪を、イヴァンは償うことさえできない。皇帝である彼には親衛隊長のように罰をくだしてくれる者もいないのだから。
その背に降り積もっていく苦しみは、日に日に重くなっていく。
この国で誰より気高いその背中は、いったいどこまで苦しみを背負うことが出来るのだろうか――。オルロフは前を歩くイヴァンの背を見ながら、そんなことを思った。