最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
「ナタリア。あまり兄上を困らせるなよ。兄上は約束を破るような男じゃないって、お前だってわかってるだろう? それにどうしても寂しくなったら俺がいる。シテビアまで俺が会いにいってやるよ」
イヴァンなりに慰めようと思った言葉だった。しかし残念ながらそれは、かえって彼女の気持ちを乱してしまう。
「いや! ローベルトがいいの! ローベルトに毎日会いたい!」
そう言って首を横に振ると、ナタリアはついにその場にしゃがみ込んで泣き出してしまった。ローベルトとイヴァンは再び顔を見合わせて眉尻を下げ、どうしたものかと途方に暮れた。
「困ったお姫様だな、ナタリアは。どうすれば僕が遠くにいてもきみを忘れないって、信じてくれる?」
ナタリアのわきにしゃがみ、彼女の小さな背を撫でながらローベルトが尋ねる。
駄々を捏ねても怒らないどころか、優しく慰めてくれる婚約者のことが好きでたまらないのに、今のナタリアは素直になれない。
本当はその胸に飛び込んでしばらく泣かせてくれたら気が済んだかもしれないのに。寂しさと、素直に甘えることを恥じる年頃が、ナタリアの本当の気持ちの邪魔をする。
抱えた膝に突っ伏した顔をあげられないまま、ナタリアは拗ねた口調で言った。
「手紙を書いて。毎日よ。必ず、毎日」
「毎日かぁ。移動中は難しそうだけど、頑張るよ。約束する。それから?」