最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
普段ならば呆れてその場を去っただろう。けれど今夜は気分がよかった。宮廷とは違う気さくな雰囲気、慕ってくれる部下の兵士たち、楽しそうな彼らの顔。それに、ジーナの奏でた音色もよかった。
「ならばもう一曲弾け。聴いてやる」
そう言うとジーナは静かにうなずいてリュートを構えた。さっきよりも静かになってきた庭に、流麗な旋律が流れ出す。
イヴァンはまぶたを閉じて聴き入ると、無意識に穏やかな笑みを浮かべた。
イヴァンはじめ将官らは、今夜はアルスキー辺境伯の館に泊まることになっている。
用意された一番豪奢な客室にイヴァンが案内されたのは、夜の一時を回ってからだった。
「必要なものがあればお申し付けくださいませ。……お水をお持ちいたしましょうか?」
部屋の案内をしたアルスキー辺境伯と侍従長は、頬を赤らめだるそうにベッドへ腰かけた皇帝を見て心配そうに声をかけた。
どうやらご機嫌な夜は彼をいつもより酔わせてしまったようだ。
「ああ、頼む」
深く息を吐いてイヴァンがそう言うと、「かしこまりました」と辺境伯たちはすぐに部屋を出ていった。