最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
イヴァンはジーナの意外な特技に少し感心した。華やかなものでもないのに、消滅し掛かっている伝統を継承する姿勢には好感が持てる。
ジーナはそれだけ答えて口を噤むと、再びリュートを奏でだした。初めて耳にするが、なんとも切なく美しいメロディだ。抒情的な秋の夜空によく合っている。
曲の心地よさに揺蕩うようにイヴァンは目を閉じ、ときどきワインを口にした。いつもより果実の深みを感じるのは、秋の空気とリュートの音色のせいだろうか。
やがて曲が終わると、ジーナは楽器を脇に置きしばらく夜空を眺めた。静かになったふたりの間には、噴水の水音だけが流れる。
「……今日は静かなんだな」
勝手なことをベラベラ喋っていたイルジアのときとずいぶん違う様子に、イヴァンは横目でチラリと彼女を見やって呟いた。
するとジーナはリュートの弦を指先で軽く弾き、イヴァンの方を見ないまま口角だけを上げて言った。
「陛下はうるさい雀がお嫌いですから。今宵はコマドリのように美しい音で陛下を癒そうと思いまして」
その言葉を聞いて、フッとイヴァンの口もとが緩む。
「したたかな女だ」