最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
 
(……そういえば……)

ふと、子供の頃の記憶がよぎった。王宮の庭園を母に連れられ散歩していたとき、花壇で奇妙に歪んだ花を見つけたときのことだ。

イヴァンが『オバケの花だ』と騒ぎ立てると、母も顔をしかめて侍女にそれを始末するように命じた。けれどローベルトは切られたその花を手に取ると興味深そうに眺めてイヴァンに教えてくれたのだ。

『これは植物の突然変異――帯化というんだよ。どうしてそうなるかはまだ特定できていないけれど、細菌やウイルスの感染だったり、虫などによる外部からの損傷だったり、土壌の成分が原因じゃないかと言われてるんだ』

どうして今、そんなことを思い出したのだろうか。けれどまるで昨日のことのように鮮やかに甦ったその記憶は、イヴァンの足を暗闇の森の奥へと進ませた。

(白い雪割草も帯化の一種だとしたら……より細菌が多く土壌の成分が複雑な森の奥の方が、咲いている可能性は高いのではないか……?)

ローベルトのように植物について詳しい知識があるわけではないが、確信めいた予感がした。
 
< 169 / 198 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop