最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
 
森はますます影を濃くし、昼間だというのに薄闇で視界をくらませる。

イヴァンは持っていたランプに火を灯すと、うしろを振り返って迷った。これ以上奥へ進むのなら、捜索隊や護衛も伴った方がいいだろう。

そう考えてイヴァンが森の入口付近にいるルカに声をかけようとしたとき、再び一陣の風が吹き抜けた。まるで早く来いとイヴァンを促しているみたいだ。

迷って、イヴァンは踵を返すとひとりで森の奥へ足を進めた。今ここで進まなくては、きっと白い雪割花はみつからない気がする。

そんな愚かな想像をするのは、やはりローベルトに導かれていると感じるからだろうか。いや、それすらも罪悪感からくる想像に過ぎないが。

(ローベルトの幽霊など馬鹿らしいと、誰より主張してきたのはこの俺だというのにな……)

自嘲の笑みを口もとに浮かべながら、イヴァンは雪を踏みしめて歩く。冬の間中降り積もった雪は深く、一歩進むたびにイヴァンの足首まですっぽり覆う。

慎重に歩みながら時々足を停め、イヴァンは木の根元などの雪をそっと手で払い雪割花を探した。


――ずいぶん奥の方まで来てしまったとイヴァンが気づいたのは、踏みしめる道がゆるやかに斜面になっていたからだ。
 
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