最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
もちろんイヴァンとて狩猟場の森に入るのに丸腰ではない。狼と睨み合いながら、背負っていた猟銃を構える。
狩猟は得意だ。動いている獣とて仕留める自信がある。それに銃声が聞こえれば、異常を察してすぐに護衛たちも駆けつけるだろう。
しかし、銃を構えたまま腰を落とそうとしたとき、脚に激しい痛みが走ってイヴァンは思わず膝をついた。
「……っ!」
狼に注意を向けながら横目で自分の脚を見やると、膝の横の脚衣が裂かれ赤く染まっていた。避けたつもりだったが、どうやら狼の爪を交わしきれていなかったようだ。
イヴァンはチッと小さく舌打ちをする。機動力を失う怪我は、煩わしい。
(二撃目は避けられない……一発で仕留めなくては)
そのときだった。狼を強く見据えるイヴァンの視界の端に、目を疑うものが見えた。
狼の後方にある木の根元。少しだけ地面が盛り上がっているそこは日が当たりやすいのか、雪が積もりにくいのか、他より雪が薄くなっている。そしてその雪を割って、一輪の花のつぼみが顔を出していた。
そう――白い雪割花のつぼみが。