最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
 
この森はそのまま山へと繋がっている。ということはここは狩猟公園の敷地からさらに奥まった、山裾ということだ。

さすがにこれ以上ひとりで進むわけには行かず、捜索隊を呼ぶためにいったん引き返そうとイヴァンが振り返ったときだった。

背を向けた山側の木の陰から、灰色の風が吹き抜けた。

「――っ!!」

戦場で鍛えてきた勘がその風の纏う殺気を察知し、イヴァンを横に飛びのかせた。

雪にまみれ転がりながらも、イヴァンは目を見開き風の動きを見定める。

「……狼(ヴォルク)か……!」

イヴァンのいた場所に足を突っ張らせて立ち唸りをあげているのは、この地に生息する狼だった。

スニークの雪山に生息する狼はとびぬけた体の大きさが特徴的だ。白みがかった灰色の体毛に包まれたその体躯は、全長二メートルを超えている。

人間の頭さえひと噛みで砕いてしまいそうな牙を見せつけながら、狼の瞳はジッとイヴァンをとらえ続けていた。
 
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