最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
ある日、ナタリアはイヴァンに呼ばれ皇帝の居間へとやって来た。
「陛下、ナタリアです。お呼びでしょうか」
ノックをしてドアを開けると、ソファに座っていたイヴァンは少年のように無邪気に破顔する。
「来たか。さあ、早くこっちへ来い」
手招きをするイヴァンの向かいには、王族御用達の仕立て屋をはじめスニーク帝国で名を馳せるデザイナーたちが幾人もいて、ナタリアは密かに驚きながら室内へ進み入った。
「今度、アレクセイを連れてトナカイの牧場を見にいくだろう? そのときにアレクセイに着せるコートをしつらえさせようと思ったのだが、いっそ俺とお前も同じデザインでしつらえて、三人で揃いのコートにしてもいいかと考えてな。ほら、どれがいいと思う? 兎の毛も柔らかくていいが、やはり王族らしくアーミンにするべきか?」
どうやら親子でお揃いのコートをしつらえるため、わざわざナタリアを呼びつけたらしい。
なんとも平和な相談に微笑ましくなってしまうが、それよりも妻と息子と揃いの服を着ようなど、かつては戦場でも宮廷でも恐れられていた皇帝とは思えない変わりようだ。ナタリアは可笑しくなって小さくクスクスと笑った。