最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
 
「我が国の王女殿下がこんなにも美しかったことを、今まで存じ上げなかった私をお許しください。ああ、私は今日ほど自分がシテビアの騎士であることを誇りに思ったことはございません! この命に代えても王女殿下をお守りすることをここに誓いましょう!」

「頼もしいのですね、ありがとう。けれどご自分の命も大切にしてくださいね」

シテビア王国の将校がナタリアの手に恭しくも繰り返しキスを落としたのを見て、隣に立っていたイヴァンはムッと眉根を寄せる。

「ナタリア、疲れただろう。少し休憩をしよう」

もっともらしいことを言ってイヴァンはナタリアの肩を抱くと、彼女に挨拶をしたい男たちの列を無視してさっさと奥の控室へ連れていってしまった。

「もう挨拶はいい、キリがない。あとは俺と踊っていろ」

ソファに座らせ給仕係が持ってきたサクランボの果実酒のグラスを手渡すと、ナタリアは驚いたようにパチパチと目をしばたたかせていた。

それもそうだろう、まだ舞踏会は始まって一時間と経っていない。今日はたくさんの人と言葉を交わして国内外に顔を広めるのが目的だったはずなのに、早々に挨拶はもういいと言われるのは予想外だった。

「……私、何かイヴァン様のお気に障ることをしてしまったでしょうか?」

ナタリアが不安そうにイヴァンを見上げて聞く。自分に至らないところがあったせいかと不安に思っているようだ。
 
< 45 / 198 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop